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-3. 革で包むと書いて鞄
~鮎藤革包堂までの道のり~

鮎澤さんはそもそも革が好きなんですか?それとも鞄が好きだったんですか?

母親が家で着物の仕立てをしてたんですね。学校から帰ると母が着物を作ってるのを見てたんです。
ラジオが流れてて、母が正座してずっと着物を仕立てる作業をしてて。
何か、そこが完成された世界というか、そこだけで完結している世界みたいに思えて、それがすごく良くて。
大人になったらそういう世界の中で、自分も何かものを作る仕事がしたいなと思ってたんですね。
会社に勤めるとか、そういうのは想像もできなかったし自分には無理だと思ってた(笑)
あと、革の匂いとかそういうものが好きだったんですね。
子供のころ男の子はみんな野球をやってたんですが、野球が好きというより、グローブを磨いてツヤツヤになるのが好きだった(笑)
グローブ独特の甘い匂いとか、あと、父親の靴を磨いてぴかぴかになったりするのがうれしい子どもでした(笑)

子どもらしいけどちょっと変わってますね(笑)

で、高校になって、自分は体がそんなに大きくはないので、普通に売ってる鞄に何となくなじめないなと思って、布で鞄を作って絵を描いたり、布地を買ってきて何かを作ったり。
地元ではそういう仕事はないし、今みたいにそういうことが学べる学校もなかったので鞄を作りたくて東京に出てきたんです。

最初から鞄を作ろうと思ったんですか?

鞄か靴で迷ったんですけど、さっき言ったように、自分がサラリーマンとしてスーツ着て革靴を履いているイメージができなかった(笑)
鞄とか財布とかはなじみがあったし、靴より作るものの幅が広いので、いろんな仕事ができる、いろんなものが作れるから飽きないしおもしろいなって。
職人をやってると、同じものを月に何十個作るとか、そういうことになるんですけど、絶対無理!って思って。飽きちゃうから(笑)
毎回ちがうものをやっていたいよ、と。
だから、けっこう若いころからオーダーメイドがやりたかったんですね。
売れる鞄屋さんというより、町のちょっと上手な鞄屋さんになりたかった。
幸いなことに、いろんな人が来てくれるようになって、いろんな注文を受けていろんなものを作らせていただいています。

-4. やりたいことが増えるから、
やれることが増えていった

そこで革職人の修業がスタートするわけですね?

革職人と一言で言っても、実は革ごとに特徴や加工の仕方が違うので、扱う革の種類によって専門で分かれるんですね。牛革だけ、爬虫類だけ、とか。
僕は最初は牛革を加工する仕事からスタートしたんですけど、ある日お客さんの持ち込みでジャクルシーっていう、トカゲの一種なんですけどワニの革みたいな凹凸があるやつなんですが、それを使って鞄を作ってほしいと言われて、うまくできなかった。
それで、その会社を辞めて、爬虫類の専門のところで5年ほど修業したので、職人としてはめずらしいんですけど、どちらもできるようになったんです。

牛革と爬虫類の革でそんなに違うんですか?

普段スーツを作ってる人がジーンズを作るような感じですかね。仕立て方は同じでも、素材の扱い方とか細かいところが違うので専門的な知識や技術が必要になるんです。
オーダーメイドで、いろんなオーダーに応えようとしてるうちに、できないことが出てくる。
そうするとどこかに修業に行って、学んで、やれることが増えて、さらにやりたいことが増えて、という感じですね。
ただ、いろんな革を扱う技術は身についたんですけど、オーダーメイドでやっていく上で一番大切なのは、お客さんの要望というか、バックグラウンドをきちんと聞いたり想像したりする力というか、そこがイメージできるまでの「時間」なんじゃないかなと。
それがないと、いいものは作れないと思います。

-5. 革新は革でできている
~技術の先にあるもの~

そこに時間をかける、というのがああこの方は本物なんだなって思いますね。
バイクのメカニックもそうなんですけど、ボルトを回すのがメカニックの仕事の本質じゃないんだ、と。
それはただの作業で、その先のバイクに乗る人のことを考えて整備するのが本物のメカニックだぞってBMWのとあるマイスターがおっしゃってたんですよね。BMW Motorradのマイスターの中でも最高峰の方なんですけど。
メカニック、という職業って、ついつい様々な症例を知っていたり、経験則からか、「色々知ってる俺の言うことを聞けよ」、となりがちなんですけど、極めてくると技術の先に使ってる人がいる。そこを大切にするんだなって。

バイクにも乗り癖ってつきますよね。
そのメンテナンスの時に乗ってる人のことを想像できるかっていうことですよね。

R18のコンセプトは「伝統と革新」なんですけど、伝統っていうと、決められた型の中に使う人を押し込んでいくイメージなんですけど、使う人をことを思うと、そこにやさしさとか、使い勝手とかを想像して、新しいものを取り込んでいかなくちゃいけなくて、そこがもしかしたら革新につながっていくのかなって思いました。

なるほど。とてもよくわかります。
僕の仕事で言うと、これ、カメラのレンズケースなんですけど…

うわーかわいい!こんなレンズケースあるんですね!

あまりないんですけどね(笑)
これ、手縫いで仕上げてるんですけど、こういう縫い方は今は誰もしないんですね。
伝統的な縫い方なんですけど、今は誰もやらない。
製品としてはこんな縫い方でこれを作ること自体は革新的かもしれないんですけど縫い方はとても伝統的な技法なんですよ。
自分はそれを伝えていきたいと思ってるんです。
僕がやってるのは昔から変わらないやり方で、お客さんの欲しいものが変わっていく。
だから、ちょっとずつ自分ができることも増えていって、作れるものも増えていって、それが革新と呼ばれるもの?につながってる感じですかね。
素材はいろいろ新しく加工されたレザーとか出てきてますけど、僕は天然の革しか使わないし、技術も昔からのものです。
今は誰もやらなくなった技術も引き継いで次の世代に伝えながら、お客さんの要望に応えるために作っているうちに、でき上がったものに革新的な要素が入り込むのかもしれない。

そういえば革新の革って「かわ」なんですよね!

「革」という字は牛を広げた状態なんですよね。
冠のところが角で足が4本あって下にあるのが尻尾で。

あーほんとだ!
革の魅力って、命として生きてたものだからですかね?
牛なら牛の人生というかストーリーだから惹かれるのかな。
触りたくなるし、触ったら手になじんでくるのは、かつてそれは生きてたらかなって。

それにしてもなぜ革新に革の字を使ったんですかね。
何千年、何万年も前からあるものなのに。

そこはこれを読む方にもいろいろ考えてもらいましょう(笑)

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