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-5. 藤井さんが考える「伝統と革新」

調理器具もいろいろ新しい技術が導入されてますよね?

そうですね。最近は蒸気が出て湿度と温度が調節できる
スチームコンベクションとかありますけど、
でもあれで私に料理させたら大失敗すると思う(笑)

そうなんだ(笑)

例えばスチームコンベクションだったら何℃で何分やると
誰でもカンタンに茶碗蒸しできます、ってなると思うんですけれども、
私はやっぱり昔ながらの蒸し器の感覚が体に染みついているので
多分この先使うことはないと思うんですよ。
でも、若い職人に使うなって言うつもりもまったくないんです。
ただ、こういうやり方で今までの日本料理があるから今があるんだよっていうのを
教えるのが義務だと思ってますので、それを教えて、
その後、彼らがどういう機器でやっていくかは
もう自由にやってくれっていう感じですね。

藤井さん自身がその伝統的な技法を学んで、
これはさすがに今はもう使う必要ないなっていう
言わば「捨てた部分」ってあるんですか?

器具とかそういったことではないかもしれないんですが、
私が習った大尊敬している師匠であっても、
焼き物は炭なんて使わずに、遠赤外線オーブンで火が入ればいい
みたいな感じだったんですね。
でも、そこを卒業して独立するまでに何軒か修業したお店で、
炭火の技術っていうものを学んだんです。
その焼き物ってこんな真剣に突き詰められるんだって衝撃を受けて、
そこからはもう火を入れるのにすごい真剣に取り組むようになったんです。

捨てられた部分を拾いなおした、っていう感じですね。

最近は低温調理の器具とかも出てきてて、
素材の中にはしっとり火を入れて最後にバーナーで表面だけパリッと仕上げる、
とかもやったんですけれど、でもそれって私の仕事なのかな?という疑問が出て。
今は、低温調理の機械より上の仕上がりでできるように、
炭火で、生の魚を皮がパリッと中はしっとりっていうところにたどり着いたんですね。

すごい…
「伝統」を突き詰めなおして
「革新」を超える、みたいな…

同じことをやってるように思われるかもしれないですけど、
そういうのを一つずつ増やしてちょっとずつブラッシュアップしていければな、と。
単に目新しいものを取り入れて、
例えばキャビアを使って仕上げにトリュフを削って出したりとか、
そういうことは私はしないようにしようと。
自分が習ってきた日本料理の範疇で、自分なりのやり方で
オリジナリティを出しながら、現代の方も楽しめる。
そういうところが私の生き残る道かな、と思っていて、
そこを評価していただいていると思うので、
なんとかこんな感じで突き詰めていきたいなというところではあります。

-6. 職人とクリエイターの間
~「作品」としての料理~

藤井さんのホームページを拝見してお伺いしたかったのが
自分で作られたお料理を「作品」って書いてあって。

そうですね。

確かに藤井さんって料理の職人というより
クリエイターさんだなと…

私は多分、職人とクリエイターの中間にいると思うんですけど、
その「作品」というのも、自分がアーティストだとか、
そういう偉そうな意味はまったくなくて、
「作品」って呼んであげることで、どれだけ気持ちがこもっているかっていうのを
伝えたいというところが強いんですね。
やっぱり美味しく食べてもらいたい。食べることを楽しんでもらいたい。
器にこだわるのもそうで。
古美術商じゃないので、1客数十万のものとかあるんですけど
それを大事にしまったままにしてもしょうがない。
もしかしたら割れちゃったりするかもしれないけど、
やっぱり料理屋なんで、そこに料理を盛ってお出しするのが務めだろうと。
そういう風に、自分の生業を表現していく上で、
いろんなものにこだわっていけたらいいのかな、っていうのはありますね。
私の友人とか先輩で、器を愛でながら夜お酒を飲んでる人とかもいますけどね(笑)

食器として作られた「作品」だけど、美術工芸品としての「作品」でもありますからね。
でも、藤井さんの「作品」は料理が器に盛られた状態で「作品」になる、と。

そうです。盛って完成だと。
魯山人(料理人であり陶芸家、画家、書道家)はじめ、
よく「器は料理の着物だ」って言いますけど、
器をセレクトしてあげるのも私らの仕事だと思います。
スタイリストじゃないですけど、料理がまったく突拍子もない器に盛られたことで、
一気に見え方が変わって、せっかくのお料理の魅力が半減したり、
というのはあり得るので、そこは注意してます。
逆に、佐藤さんはR18を「作品」と思われますか?

そうですね。バイクもカメラも時計も、使いながら大事にしています。
僕のお客さんの教えなんですけど、クルマもバイクも所詮道具やぞ、と。
使わなきゃ意味ないぞ、眺めてたってしゃーないんやぞって。

そうですよね。私も同じ意見です。

器だって、それを作った人がそれに盛って欲しいから作られたんじゃないか。
崇めてほしいから作ったわけじゃないと。
僕が言うのもすごくおこがましいんですけど、
藤井さんは調理器具も器もすごく正しい使い方をされてるなと。

ありがとうございます。

-7. 御料理 ふじ居 誕生秘話

先ほどからこの客席でお話を伺いながらお庭も拝見してるんですけど
すごい庭園ですね…

北前船で栄えたお屋敷の跡地なんですけど、
お庭は最初からほとんど触ってないですね。
松とかもその時からのものなので、年数を経た風合いみたいなものは
ぜったい真似ができないんですね。それが歴史。
それはもうありがたい限りです。
今からどれだけお金をかけて作ろうと思っても、
その趣みたいなものは多分真似できないんじゃないかな。

岩瀬でお店を始められるきっかけは?

ここの前は富山駅の近くでお店をやってたんですけど、
満寿泉の蔵元の桝田さんがオープン当初からずっとご常連様で通っていただいてて、
岩瀬に来ないか?岩瀬に来ないか?ってずっと言われ続けて…

ああ、やっぱりそうでしたか(笑)

この店が5年になるんですけど、ここに来る1年前の2018年くらいに、
「来る来ないは別にして一回見に来たらどうだ?」ということで来てみたんですね。
当時ここはがらんどうだったんですけど、
「ここにカウンターがあって、お客様が庭を見て、藤井くんがここに立って…」
っておっしゃってた場所が、佐藤さんの席と今私が立っているここなんです(笑)
その時は何もない骨組みのままだったんですけど、
ぱっと今の景色がなんとなくイメージできてしまって。
「社長、ちょっと行く方向で」って(笑)

桝田さんの計算通り(笑)

前のお店も丸8年やってて、
ここで表現できることはもうやり尽くしたなっていうのもあったんですかね。
何年もさんざん断ってたんですけど、そこからポンポンと話が決まっていきました。

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