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-4. 勝つぞ!

満寿泉の桝田酒造がある岩瀬を世界のワイナリーと並ぶくらいにしてやるぞ、
っていうこと?ですか?

いえいえ。そんなんじゃないです。勝とうとしてるわけ。
並ぼうなんて思ってなくて「勝つぞ」と。
僕たちは負けてたからシェアが下がっていったわけですよ。
一時の1/5なんですね。日本酒って。
じゃあなんで日本酒が選ばれなかったかって言うと「魅力がなかった」。
選ばれない理由があったわけで、クオリティのバリエーションがない、
地域の特性がない、カッコよさがない、ジャケ買いしたくなるような
ラベルのデザインがない、いろんな理由があったから
僕たちは選ばれなかったわけで、これを「選ばれる理由」を作って、
もっともっとチャーミングにしない限り、ずっと負け続ける。このまま。
だから変える必要があるって思っていろんなことをやってるんです。

負け続けるということは、いつかなくなっちゃかもしれない?

そうなってもおかしくない。

日本の伝統工芸とかも素晴らしいものがたくさんあるのに、
後継者がいないとか、飯が食えないとかで衰退してしまってるものもありますもんね…

だからもう無我夢中でいろんなことをやってるんです。

シャンパンの醸造家とコラボしてIWAっていう日本酒の醸造所を作ったり、
シーバスリーガルと日本酒を造ったり、
シャンパーニュのアンリ・ジローと日本酒を造ったり…、
羊羹の「とらや」さんと日本酒を使ったかき氷を造ったり、
いろんなブランドとコラボして、彼らのフィロソフィに触れてるわけです。

あ、この「Relation18」の取り組みもそうです!
って言うか、今まさに、桝田さんのフィロソフィに触れさせていただいてるんですね。

知れば知るほど「日本酒は売れないはずじゃん」って思うわけですよ。
だからいろんなものを一生懸命変えてます。
この街も、来た人に日本を好きになってもらわないといけない、
と思って、昔の美しい街並みを復元したりして。
ヨーロッパ人なんて日本に何の興味もないから、
こっちを振り向かせられない。悔しい。
で、「クラフト(工芸)」と「食」だったら
振り向かせられるな、と。
そう思ってやり始めたんですが、続けてると
割と簡単にやっつけられるんです(笑)
ヨーロッパの人は知的好奇心が高いから、
自分の文化にないもので、ひきつけられるものがあると
割と簡単にやっつけられる(笑)

そうなんですか?(笑)

この間もパリからボンマルシェ(パリを代表する高級百貨店)の社長たちが来て、
寿司屋のGEJOの寿司を食べて、「下條さん、ボンマルシェに出店してください」って。
そんな感じですよ。みんな誘われてます。
岩崎くん(木彫家・岩崎 努さん EPISODE10 木彫×R18)の彫刻にしても、
「もうぜんぶ買って帰りたい!」って、みんな言う。
そういうクラフトの力もあって、みんな洗脳されてるから、
日本酒にもうっとりしてくれる(笑)

なんかずるい気もする(笑)

この岩瀬で世界の人たちを魅了する舞台装置はだいぶできてきたかなって。
あとはここ富山の自然、海ですね、それとアコモデーション(宿泊施設)を
うまくコネクトしたらもっといけるかな。

リゾート地みたいになる?

でもマスは求めないんです。
ただの観光地になることを望んでいるわけじゃない。
誰でも、というわけではなく、この地の自然や文化や僕たちの活動に
興味を持っていただける方には、ぜひ来て楽しんでいただきたい。
そんな方が、日本だけでなく、世界中から来ていただけるようになったらな、
と思っています。

-5. 「日本一」じゃダメ?

まず日本一を目指してそれから世界へ、とかは考えなかったんですか?

もちろん。だって日本一って世界では500番目くらいかもしれんし(笑)
そんなの何も楽しくないじゃないですか。いろいろできることはあるんです。
例えば、サンセバスチャン(スペイン・バスク地方のリゾート地)なんて、
何もなくて誰も来なかったところだったのに、シェフたちが集まって、
おいしい地元料理のレシピを公開して、みんなで盛り上げて
食の都みたいなイメージを作ろう、と。
それで人が集まり、文化が集まり、グッゲンハイム美術館ができて、
世界に名だたる美食都市になっていったわけで。歴史としてはほんの30年ですよ。
あと、映画にもなったけど、北欧のnoma(ノーマ・北欧料理の新境地を切りひらいた
レストラン)が、干した鱈(タラ)とジャガイモしか食文化がないようなデンマークを
「美食の都」にするわけですよ。
北欧が世界で爆発的人気になったのもほんの20年です。
スカンジナビアンデザインって最近もてはやされてるけど、
それまではただの質素なものだったのがこんな人気ですよ。
それにはおそらくおカネが関係してて、ノルウェーの北海油田開発が
すごく大きなインパクトだったと思うんですね。
そのおカネが食やクラフトに回ってきて洗練されていった。
最近だとイギリスの食がおいしくなってきています。
昔はイギリスの食なんて…って思われてたけど…

ああ、それはよく聞きますね。

あれだけおカネが集まると食のクオリティも上がっていく。
最近はイギリスのパンが食べれるようになってきてる(笑)
一方、日本は、バブルが崩壊してじゃぶじゃぶだったおカネが消え去って、
いろんな文化が崩壊していって衰退期を迎えてる。
だから、日本で1番になってもな、って思うんです。
「目指すは世界だぞ。マーケットを世界に広げるんだぞ。」と。
安田くん(ガラス工芸作家・安田泰三さん EPISODE9 ガラス工芸×R18)たちに言ってるのは、
君たちの「敵(ライバル)」は長浜(ガラスの町として知られる滋賀県の街)の
ガラスの工房じゃなくて、ロロ・ピアーナ(イタリアの高級衣料品ブランド)だし、
クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI イタリアのラグジュアリーブランド)だし、
エルメス(フランスの高級品メーカー)だぞ、って。
そういう連中に勝つんだぞ、って最初から言ってます。

並ぶんじゃなくて勝つんだ、と…

そうです。勝ち負けなんです。
勝たないと負けなんです。

-6. 魅力を伝えるということ

桝田さんのお話を伺って、私たち、そういう戦う姿勢というか、
目指すところに行くまでは後には引かないぞっていう強い気持ちって
今まで持ってなかったですね…
R18ってほんとにいいオートバイだな、好きだな、と思うんですけど、
発売から3年になるんですけど、ぜんぜん見向きもされなくて…

プロモーションが見えにくかったんじゃないですかね。
ハーレーって上手かったじゃないですか。
ハーレーのあるライフスタイル提案をすごく前に出してた。
けどBMWって、四輪もそうだけど、マニアックな機械おたくの
乗るものって感じで(笑)

そう思われてるふしはありますね(笑)

みんなが持ってるイメージがそこで止まってしまってて、
このオートバイのエレガンシーとかエスプリとかが
メッセージに入ってないんじゃないですかね。

なるほど…

あ、ドイツワインといっしょかな。
ドイツワインってすごい高品質でおいしいのに、ラベルにはドイツ語しか書いてないから
誰も読めないんですよね。
そのせいかドイツワインって不当に低く評価されてる。
世界のワインマーケットの中で、フランスとイタリアのものが高く評価されてて、
ドイツのワインはずーっと低い。
書いてあることが読めないっていうのは、
つまり良さを伝えようとしてないってことですよね。
ドイツ人にしてみたら、ドイツのワインはすごくわかりやすいって言うんです。
QbA(クーベーアー ドイツのワイン法で定められた、厳しい条件をクリアして
生産地の表記が認められたクラスのこと)とか格付けがしっかりしてるから、
すごいわかりやすいって言うけど、外から見たら誰もわかんない。
それと近いものがあるかもしれないですね。

もっとプロモーションしたいんですけど、それがあまりうまく伝わってないんですね。
でもすごくいいオートバイだし、うちのお店独自で、もっとうまく紹介したい、
ということでこの企画もやってるんですけど…

世界に向けて日本酒のプロモーションもやりたいんだけど、すごいむずかしいんですよね。

そう言えば、満寿泉って種類がいっぱいありますよね。
それって世界に挑戦するためにいろいろ計算されてやってるんですか?

ぜんぜん!僕の思いつきですよ(笑)
米を作ってる知り合いが、「子供ができたからうちの米でお酒を造ってくれ」
って言うから「めでたい!造ろう!」とか(笑)
「山田錦のお母さんにあたる米、山田穂がある」って聞いたら、
「あー、それ頂戴!うちでお酒を造ってみる!」って造ったり(満寿泉 純米大吟醸 BO)、
リシャール(ジョフロワ 前述)が「生酛造り(きもと・酒母を手作業で造る製法)が
好きだ」って言うから、それ造ったり(満寿泉 純米大吟醸 R KIMOTO)、
「ワイン酵母で日本酒造ろうか」って言うから「ああそれやろう!」
とか(ワイン酵母/満寿泉 MASUIZUMI GREEN NAMA)。
で、やってみたらそれぞれがいい酒になるんです。
ぜんぜんだめだったら切っていけるんだけど、
それぞれに思い入れがあってどれも捨てがたい。そしてうまい(笑)
そうやってどんどん造ってって、30種くらいやると
25くらい残るんですよ(笑)

へーーー!
あまり悩まずにどんどんやっちゃう、っていうのがいいのかもしれないですね(笑)

今日の社会科見学の時に高校生の女子が質問してきたんだけど、
「何かをやろうと思うんだけど、やる前からできない理由を作ってしまって、何もできないでいる」
みたいなことを言ってて。
まさにそうですよね。できないって思ってしまった瞬間からできないから。
「どうやったらできるんだろう?」って考えるクセをつければ、
たいていのことはできるんですよ。

日本人ってやる前からリスクを考えすぎて、
石橋叩いて渡らない、みたいなところありますよね。

いま、中国では物販店でも無人店舗とか
じゃんじゃんやってるじゃないですか。
やってみたらやっぱり勘定を払わない客もいるしトラブルもあるけど、
いろいろやってやりながら走ってる。
新しいものが生まれていくのはそれだけでおもしろいですよね。

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