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-4. 富山にいるのになんで富山の魚を
ちゃんと使わないんだ?

そんなわけでその後、富山に流れてきたんですけど、
その時の選択肢としては居酒屋しかなかったんですね。
で、富山の居酒屋に雇われて料理を作るようになって、
他の食べ物屋さんとかに行ったりするようになるんですが、
そこで思ったのが、「富山にいるのになんで富山の魚をちゃんと使わないんだ?」って。
きれいなお料理を作る人はいっぱいいるのに魚を使わない。
じゃあ富山の魚をおいしく食べられるようなお店をやろうか、と。
富山の魚をいかにおいしく食べてもらうか。
おいしい魚をあれこれいじくりまわしたりしないで、魚のそのままの味を味わってもらう。
そんなわけで、富山の漁港、魚津で自分の店を出したんです。

岩瀬に来られたきっかけは?

実は20数年前から桝田さんに来い来いって誘われてて(笑)

あー、やっぱりあの人かー(笑)

桝田さんとの出会いは、私が魚津にお店を出した頃で、
お店で出すお酒を満寿泉さんから納めてもらってたんですが、
先代の社長さん、今の会長さんのところに遊びに行ったら、
ロンドンに留学中の息子帰ってきたから今日から社長をバトンタッチするって(笑)

すごいタイミング(笑)

大阪にいる時に「雪月花」っていうお酒を飲んで、
すごくおいしいと思ったんですが、「雪月花」ってどこのお酒?って
聞いたら満寿泉だったんです。
富山に来てから知ったんですよ。満寿泉って富山なんだ、って(笑)
で、魚津で魚料理やるのでお酒使わしてくれ、と頼みに行ったんですね。
それからのお付き合い。

その魚津のお店は?

たたんできました。
生まれた土地でもないし、そんなに未練はなかったですね。
そこそこ人気店だったんですが…(注・かなりの人気店だったようです)

岩瀬の魅力ってやっぱりいろんな人が集まってることですかね?

それもありますが、私としてはおいしいお酒がそこにあること。
この店はお客さんに落ち着いて料理やお酒を味わってもらえるように
席数も少なくして完全紹介制にしちゃったんですが(注・現在は紹介制を解消)
誰にも教えたくないって言って、誰も紹介してくれないんです(笑)
食べログとかとも付き合いが切れちゃって地図にも載ってない。

伝説のお店ですね(笑)

-5. ねんじり亭のスタイル

メニューはお酒とお料理をセットで考えてるんですか?

これは私の考えなんですが、よく料理とお酒のマリアージュとか、
これとこれが合いますよとかって言うじゃないですか。
そんなのちょっと信じられなくないですか?
へたしたら酒が飲めない店主が勧めてたりするんですよ?

なるほど…

たとえばフレンチって、魚の臭みを消すために
ワインとかソースとか合わせるわけですね。
香水の文化といっしょで、匂いを消すために匂いをつける。
でも私からすると、そもそも生くさい魚を出すところに行かなきゃいいじゃん、と。
日本酒だって臭みを消すために飲むわけじゃないんだし、
そんなことしなくてもおいしく飲めるじゃん?
旨いものに旨いもの合わないわけないじゃん?って。

たしかに!

うちは魚をいじくりまわしたりしないで、いいお魚をいいお酒で楽しむ。
いい魚といい酒が喧嘩するわけがない。
だから私はお酒と料理を合わせることはしないです。
そもそもお店が勧めてくるお酒って高い酒でしょ? (笑)

ですね(笑)
シンプルに、おいしいお魚とおいしいお酒をおいしく楽しんでもらうために
「刺身」にこだわって「刺身屋」というお店にした、ということですね?

刺身じゃない料理も出しますけどね(笑)
要はうまい魚を出す店、っていうことです。
じゃあちょっと刺身、お出ししましょうか。

え!…いいんですか!?

-6. ねんじり亭の刺身
~おいしく食べるためにぜんぶやる~

あ、安田さんのお皿だ!
EPISODE9 ガラス工芸×R18
なんか皆さんが街中でコラボしてるんですね!

うちの食器は安田さんの一点物の作品が多いんですよ。

すごい贅沢ですね…

では、アジから。
こうやって一切れずつ出すんです。
よければ塩とワサビで食べてみてください。
塩はヒマラヤ岩塩。ワサビは安曇野のものです。

うわー…おいしそう…つやつやしてます…

私、いま魚にさわって切ったんですけど、手の匂い嗅いでみてください。
まったく魚臭くないでしょ?
うちの魚は生臭い匂いがしないんです。
普通はアジをさわるとアジ臭くなるでしょ?
でもそんなのまったくない。これがうちのアジです。

ほんと…ぜんぜん生臭くない…というか
…とんでもなくおいしい…初めてです…ちょっと衝撃…

魚って本来臭くないんですよ。臭いのは変な魚買ってくるから臭い。
匂いの素と言われるウロコとかヌメリって、人間でいう「服」なんですよ。
外にいっぱい汚れが付いてるわけです。ちゃんと裸にすれば臭くない。
あ、お酒飲んでいい人はお酒お出ししますよ。

う…、これからまだ取材させていただいたり、
化け物みたいなオートバイを走らせたりするので…見るだけです…(泣)

それは残念(笑)
では次はキジハタっていうお魚。

すっごい…おいしい…飲み込むのがもったいない…

次は、さっき話に出た富山湾のイサキ。
イサキは富山湾がいちばんおいしいと言われる日がきっと来ます。
今でもおいしいけど。

ああ、ほんとにおいしい…適度に弾力があって…

普通はこの時間になると魚の切り身って固まっちゃうんですよ。 でも、ほら、うちの刺身はぶらんぶらん(笑)

ほんとだ…

うちはこの食感が夜までちゃんと残るんですね。そういう仕込みがしてあるんで。
普通は残らないんです。夕方になったら硬くなってる。
こういう仕込み方は魚屋さんにはお願いできないんですよ。
だから一人でぜんぶやるしかない。
魚の絞め方で「神経絞め」って最近流行ってて、魚屋さんも漁師もみんなやってますけど、
何のためにやるかわかってない人が多いんです。
これって、要は死後硬直を遅らせてるだけなんですよ。

お魚の死後硬直(笑)

そうなんです。その作用だけなんです。
神経絞めしましたって、魚市場にいっぱい並んでますけど、
たしかにその時点ではまだ固くないです。
でも、仕入れて帰ってきてそのままにしとくと
カチンと固まってそれで終わり。

いちど硬直するともう戻らないんですね?

だから、神経絞めの効果があるうちに骨からぜんぶはずして、
小骨も抜いて皮も引いて、ってやらないと、こういう刺身にはならない。
でもそんなことやってる人はほとんどいません。
有名な魚屋さんだって、神経絞めして血抜きしてるから、
うちの魚は最高だって言ってますけど、それだけでは中途半端なんです。
だから一人でやるしかないんですよ。
生きた魚を買ってきて一から十までぜんぶやらないと。
それを魚屋さんにやれって言ったら魚屋さんは過労で死んじゃいます(笑)

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