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-4. あえて「パンツ」で勝負する意義
~伝統と革新~

周りの人がしてなかったことをなさってるんですね?

今日の僕の恰好を見てもらっても分かると思うんですけど、
僕がテーラーですって言ってもたぶん誰も信じないと思うんです(笑)
テーラーってスーツ着てネクタイびしっとしめてポマードつけちゃうみたいな(笑)
パンツ職人もそう人ばっかりだったんですよ。
でもそういう人にパンツをオーダーするとしたらそういう人たちが着てるものをオーダーしますよね?それだとどこまでいっても上着の下、なんですよ。
でもパンツってただの上着の下じゃないじゃない。
それだけじゃないんだよってメッセージも込めて僕はスーツ着ないんです。

それがまさに他の人と違うよってことなんですね。
わたし、トラウザーズってなんだろうってググったら
「上着ありきのパンツ」って書いてあるんですよ。
あーそうなんだ、トラウザーズだけじゃ成り立たなくて上着のためのパンツなんだと思ったんですけど、そういう今までの考え方とこれは違うよっていうことなんですね?

はい。
それこそBMWさんが「伝統と革新」って打ち出されてますけど、
僕らも伝統ある業種に含まれて入るんです。
しかもオーダーメイドっていうと昔から続いてきたもので。
例えば、いま皆さんが着ている服、既製服の発祥はオーダーメイドだった。
そのオーダーメイドからプレタポルテ(既製服)に変わっていって、今の時代になっているわけで、
服で言うといちばん伝統的な仕事をしている人間なんです。
でも、ただ伝統的なことだけをやってると時代に取り残されちゃうんで、だったらいま僕らが着たいもの・ほしいもの、かつ、みんながほしいものは何だろうって考えながら、商品企画だったり、ものの作り方だったりとかを考えています。

重鎮の方たちとかから「けしからん!」とか「トラウザーズとはこうあるべし!」みたいなことは
言われたりしなかったですか?

ああもう最初はめちゃめちゃ言われました(笑)
僕は26歳の時に独立してるので、若造だしヘンなことやり始めてるし、
いろんなところからバッシングも受けたし。
でも、攻撃されてまったく気にしないわけじゃないですけど、まあでもそれって関係ないなと。

-5. 目の前のお客様と向き合うこと

関係ないと思えるのはやっぱり自分が信じてるから?
たいていの人はそんなに自分を保てないと思うんですが。

他人が言うことじゃなくて、目の前にいるお客様に対して何ができるかを常に考えてきたので、
周りが何を言おうが結局、作って着てくれるお客様がいてそれが真実なんですよ。
気にする必要もないし、こういう業種じゃなくても異業種とかで新しく入ってきたりしたら
ネガティブキャンペーンってあるじゃないですか。
でも、そういうことやってる方が潰れていくんで気にしなくていいって思ってます。

わたし、逆だと思ってました。テーラーとかって、そっちに合わせなきゃいけないのかなって。
お客様のためって言われてみれば納得なんですけど、そこの格式に合わせなきゃいけない、
そこのやり方だったり雰囲気に合わせなきゃいけないと思ってたんですけど、ちがうんですね。

一般的に言うとそうです。テーラーって言うとハウススタイルというものがあって
うちの服だとこうだよとか。
BMWのバイクってこうだよと言うのがあってお客様が買いに来る。
もちろん僕らにもハウススタイルはあるし、無くてはならないものだとは思うんですけど
買っていただくのはあくまでお客様なので。
パンツって、いまほしいというアイテムなんですね。
ジャケットとか靴って先を見越して買えるじゃないですか。
バイクでも納車は待てるじゃないですか。

待てますね。それが楽しみだったりします。
待てない人もいますけどね(笑)

でもパンツってシーズンごとに買うものだから、買ったらすぐ履きたいものなんですね。
そういうアイテムを、オーダーして半年待ってもらう。
わざわざパンツを作りに来てもらったのに、いまみたいなコロナという制約もあるのに作りに来ていただけるってよほどのことじゃないですか。
そのよほどな動作をしてもらってるのに、うちのスタイルしか作りませんっていうのは
サービスとして二流じゃないかなと。
だから、僕らは僕らのスタイルはもちろんあります。
ただ僕らはあなたに合わせたスタイルを作ることができます。
いろんなお客様のニーズに合わせられる。
なので僕らはそのことに注力して会社をやっているので、あくまでサービス業。

お客様がオーダーしに来られるわけですけど、いやそれはおかしいんじゃないの?とか、
そのオーダーでなぜおれのところに来るの?とかってありませんか?

ありますあります。
皆さん、せっかくオーダーするからって、「足し算」をしたがるんですね。
例えば黒のパンツ作るのに、赤いステッチ入れてほしいとか。

わかる!(笑)

そういうのって失敗すると、ものすごくダサくなるんですよ。
服とかバイクもそうだと思うんですけど、基本的に「引き算の美学」だと思うんです。
かっこよくなっていくのって引き算だと思ってます。
で、お客様が足し算のものがほしいって言われて、言う通りに作って、
それを履いたお客様が周りの人に、え、それ10万円で買ったの?ダサー!って言われたら
それってサービスとして最低じゃないですか。
なのでそういう時はお客様を説得する方に僕は回ります。

コンサルティングですね。

そうですそうです。
これがほしいって言われた。それがかっこいいのはわかりました。
ただあなたにとってのかっこよさは、おそらく周りの人にとってはかっこよくないになる可能性があるから、だったらこうしませんか?っていう提案をするわけです。
で、それをまずは経験してもらって、あ、言う通りだったんだって思っていただけたら、その後、僕の言うことをより聞いていただけるようになるので、次の提案も通りやすい。

オーダーメイドってビスポーク(bespoke)っていう名前なんですけど、語源は話し合いっていう意味なんですよね。
話し合って初めてできるもの。

お客様との意思疎通をちゃんとして、お互いが納得する1着を作りましょうねっていうカタチなので、語源の通りのことをやってます。

いろんな人とのコミュニケーションとれるっておもしろいですよね。
わたしもショールームにいることが多いんですけど、いろんなお客様がいらして、これが欲しいっておっしゃるんだけど、話を聞いてみると、いやいやあなたにはこっちの方がいいんじゃない?ってことがあって。本当にその人に合ったものって何なの?って。
いろんな会話をたくさんして、でもオーダーしに来る人ってこだわりがあるわけでしょう?
言うこと聞いてくれない人っていませんか?

いますね(笑)まったく折れない方もいます。
けど、根本的にそれが欲しいのか。その欲しい理由を掘り下げると、いやこっちの方がいいんじゃないって。
うちのものが欲しい、と。でも、それはなぜ?って聞くと、うちのパンツをはいてるっていう名前が欲しいという方もいれば、単純にTPOにあったパンツが欲しいっていう方もいたりとか、細く見えるパンツが欲しいっていう方とか、それぞれのゴールがあってうちに来ていただく。
例えば、細く見えるために太いパンツを履きたいというオーダーに、ただ太いパンツを勧めるのが正解かと言うと間違いだったりするんですよ。
本当のゴールを聞かずに太いパンツを勧めて、結果として太く見えてしまったりしたら、お客様が求めるゴールとはかけ離れてしまう。で、二度と来なくなる。
なので、本質がどこにあるかを、僕らは話すようにしています。
パンツが欲しいっていらして、何でパンツが欲しいの?って掘り下げて聞くと、
細く見せたいんだと。
それがゴールだったら僕らはお客様の言うことを聞かないほうがいい。
それは太いパンツじゃなくてテーパードパンツっていう、裾に向かって細くなるパンツとかの方が
スタイル的にはかっこよくなるよって話をすると、じゃあそれ試そうかなって。
だからちゃんと本質を見極める話を最初にするのが僕らのサービスだと思っています。

欲しいものを売るだけじゃなくて、まずお客様の話を聞くというところが大切なんですね。

ヒアリングがめちゃくちゃ大事ですね。
だから、最初はビスポーク専門・オーダーメイド専門でやりたいと思ったんです。

お客様に品物をお渡しする時めっちゃドキドキしそうですねw
わたし心臓もたなそうだわw

合格発表を待ってる状態ですね(笑)
BMWさんでウエアも売られてるじゃないですか。
ウエアってその場で試着できますよね?だから、目の前で問題点がすぐわかるんですよ。
でもパンツって更衣室に入るじゃないですか。視界からいちど消えるんですよね。
更衣室からなかなか出てこないときのあの吐き気…。
あーだめだったかなって思ってたら、中で写真撮っててめっちゃいいですねって(笑)
だったらもっと早く来て!ってなっちゃいますけど(笑)

毎回それ心臓もたないなあ。楽しみな時間かもしれないですけど(笑)

納品が一番緊張しますね。こちらから提案したものでもあるので。

-6. 五十嵐流メンタルの保ち方

これまで順調に来られてきたとは思うんですけど
五十嵐トラウザーズっていう看板を背負ってしんどいことってなかったですか?
もうやめちゃおうかなってこととか、心がズタボロとか…。

やめちゃおうかなってことはあったかな(笑)
いちばん最初、人数が少なかったころはなかったですかね。
ぜんぶ自分の責任でできてて、何かあったとしても、ぜんぶ自分で解決できる時は
めちゃくちゃラクだったんです。
でも人数が増えてきてチームとして動きだした時に、やっぱり社員の言い分も分かるし、
でも自分はこうしたいっていうのもあって、それをどう伝えればいいかわかんなかったり。
僕が言ったことでお客様に迷惑と言うより、やったことは会社の経営としては間違いでは
なかったけど、チームのメンバーのメンタル的には間違いだったなということはあります。
それに気づいた時は、うわーおれには向いてないのかなって…。
指示役でもあるし、職人でもあるけど経営者でもあるので、僕の指示で動いてもらえんですけど、
ワンマン経営にはしたくないので、みんなの意見をヒアリングとかはするんです。
で、GOサインを出さなきゃいけない時もあるし、その判断が、
「あ、やべ、失敗したかな」って思った時はネガティブになったりしますね…。
ただその時失敗だったとしても、やっぱりあれは失敗じゃなかった、と思えるところまで行ければ
問題はない。そう思っています。

落ち込んだときに決まってやることとかってあるんですか?

サーキットに走りに行きます。
僕は、ほっとくとずーっと仕事のことを考えちゃうんですよ。
なので何も考えられないくらいサーキットを爆走して自分を追い込むとスッキリします。
サーキットの速度域にいるとそれ以外のこと考えられないので。

たしかに!余計なこと考えてると死んじゃいますもんね(笑)
でも、もっと少ないリスクでできること、あるじゃないですか?

ドライブだといろんなこと考えられちゃうんですけど、バイクだと何も考えなくていいというか(笑)
バイクとクルマって同じ乗り物ですけど、バイクは操作に集中してないとかなり危ない。
そこが違うんですよね。
だから余計なことを考えない時間を作るために、モータースポーツとか好きでやってます。
順風満帆に見せることも大切なんですけど、水面下ではけっこうあがいてるんですよね。

それはかっこ悪いことではない?

そうですね、あがくこと自体は別に人に見せられるし、隠す必要はないと思っています。
ありがたいのは、おカネで困るとか注文がなくて困るってことが今のところ一度もないので、
この業界に入った方が一度は経験する苦労がなくて、人材が集まらないとか納期が間に合わないのを
どうするかとか、そのためにみんなにムリさせちゃったなとか。
そっちの苦労の方が大きいですね。
自分でがんばればどうにでもできることは、たぶん傍から見たら苦労したねって思われることは
あるかもですけど、自分自身は苦労だとは思ってないんで。
これ言うと引かれるんですけど、独立したての時って1週間に4時間しか寝なかったんですよ。
その時は倒れました(笑)
納期が間に合わなくて、仮眠をちょっとずつとって、ひたすら縫い続けるみたいなことをしてたんですけど、ぶっ倒れちゃって、これはもう無理だなってなって思って社員に入ってもらった(笑)
そこからラクになったけどちがう悩みも出てきたわけですが。

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