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-4. 真っ赤な会社?

山田さんで4代目っておっしゃってましたけど、最初から継ぐつもりだったんですか?
この家に生まれたからにはお前は漆器屋として後継ぐんだぞ、みたいな…。

ぜんぜんないです(笑)
親から言われたことも一度もないし、大学出て普通にサラリーマンやってたんですよ。
銀行に入って、ここの社長になってやる、とか思って働いてたんですが、三代目である親父が体調を崩して、銀行を辞めて継ぐことにしたんです。
最初の1年は百貨店の店頭に立って販売員やったりとか(笑)
ちゃんと下積みもやってましたよ(笑)

銀行マンから突然社長に(笑)
すんなり馴染めたんですか?

そんなに苦労した記憶はないですかね。
まあ振り返ってみると、小さい時から漆にはなじみがあったわけです。
家自体は現代風の普通の家ですけど一般の家庭の何倍も漆器が周りにあるし、食卓には漆器が普通に並んでるし、家の内装にもたくさん良い漆が使われてて。
それらを日々使ってたので、漆には馴染みがあった。
それに、継いだ当時は会社自体もまだ小さかったんですよ。今の1/3くらいかな。
当時はバブル崩壊して、漆器なんて売れなくて、ライフスタイルの変化もあって。社員も10人いなかったんじゃないかな。
だから割と家族的な会社だったのですぐ馴染めましたね。

ご自身は銀行の社長になってやろうくらい社会で大成しようと思われてたわけですよね。
継ぐときにこれを何とかしてやるぞ!
それこそ「革新」してやるぞ!みたいな意識があったんですか?

革新しようというのはなかったかな。
というか、会社を引き継ぐときに決算書を見て正直ビビりました…
真っ赤っ赤の赤字なんですよ(笑)
この空間みたいに(笑)
銀行員やってたから決算書見てすぐわかるんですけど、こんなひどい決算書見たことない(笑)
この会社、潰れるリスクが相当あるなとは思いました。
お店でも話しましたけど、うちは親父の代から新しい取り組みをやってたんですね。
漆器の売り方にしても、あのお店にしても。
でもそのための投資としてはけっこうかかってたんですね。

伝統的なことをやっているんだけど新しいチャレンジもしている。
でもその会社は真っ赤な赤字だった…
どうしようって思ったんですか?

逆にやれることって少なかったんですよ。おカネがないから。
だからいろんなタネをいっぱい蒔いて、その中から芽の出そうなやつをちょっとずつ育ててっていうアプローチですかね。
一つに絞ってガーッと勝負かけることができなかったんで。
その中で一番結果が出たのはEC(Electronic Commerceネット通販)ですね。
1999年にうちはECサイトが立ち上がってるんですよ。めちゃくちゃ早いんですよね。特にこの業界では。
当時自分でWebサイトを作って、自分で写真撮って、自分で画像加工して、自分でアップして物を売る。
ECが発達するとともにうちのECも成長していったんですよね。
今の事業規模で今のECサイトを起ち上げようとすると億単位のおカネがかかると思うんですけど。

楽しいサイトですよね。

とにかく情報発信をしないといけないなと思ったんで、Facebookもいち早くアカウント取って情報発信を始めたし。
基本的に食器が多いのでモノの画像が多くなりがちなんですけど、できるだけ使用シーンや食品を盛ったイメージカットをたくさん撮って、漆器のある豊かな生活のイメージを感じてもらうとか。

食器にお料理のカードが置いてあってレシピまで付いてるんですよね。

買った後のことまでイメージさせる取り組みですよね。
ブランディングという意味でも、僕がこの会社に入った時は、お客様にお納めする箱は各産地でばらばらだったんですけど、それを全国で統一して、平安堂と言えばこの箱、みたいな。 ショップカードやラッピングペーパーもしかりですね。全体を統一させる。
そういうリスクのない小さなことを積み重ねて会社が良くなって。
で、今はBARを作ったりする、投資ができるようになってるんです。

-5. 100年後に責任を持つために。

先ほどお店でもちょっと触れましたけど、うちの会社の社内向けのメッセージ、「漆器の100年後に責任を持とう」なんです。
漆産業って、放っておいたら、マーケットも縮小して、職人もいなくなって産業としては維持できないと思うんですよね。100年後には無くなっちゃう。
せいぜい、伝統工芸だから残しましょう、みたいなので国から細々と補助金もらってやっていく、みたいな…。
そうならないように、われわれは、100年責任を持とう、と。常に100年後を考えてやっていこうと。
そうして漆器業界に貢献できる仕事をやっていこうと思ってるんですね。その一環として工房を立ち上げたり、職人を育てたり。
まあ若かったんで、仮に潰れてもまあやり直しがきくかなと(笑)
今、あの状態の会社を継げって言われたらその判断は難しかったかもしれないです。
当時は失うものがあんまりなかったんで。
漆器でここまで育ててもらったんだから、漆器に恩返しはしなきゃいけないなって。

R18もBMWのバイクとして100年目に発売されたアニバーサリーモデルなんですけど、これもBMWの「100年後に責任を持つ」の証かもしれないですね。
その魅力をもっともっと広めていかなきゃなと思ってるんですけど、なかなか難しいんですよね…。
心が折れそうになることもしばしばなんですけど、山田さんは漆の素晴らしさを伝えようと、伝統とか従来のやり方に縛られないで新しいものにどんどんチャレンジされてますよね。
そのやり続けるモチベーションはどこからくるんですか?

やっぱり僕の根底に流れている「漆はかっこいいものだ。それを伝えたい」っていうことでしょうか。
ダイニングテーブルは漆でしたし。かっこいいんですよ漆って。
漆器が今の時代に斜陽になってるとしたら、それは今こんなにライフスタイルが変わっているのに漆器屋から新しい提案ができてないんじゃないかと。
今のライフスタイルで漆がどう生きるかっていうことを考えてるだけなんですね。

なるほど。

漆は美しい。
100年前も美しいし、今も美しい。なのに漆のマーケットは100分の1、1000分の1になっちゃってる。
でもそれは、美しさの表現の仕方が時代にマッチしてないだけなので、ちゃんと美しい見せ方をしてあげればいい。
うちの食器はそういうコンセプトで作られているし、これからは万年筆とかカフスとか身につけるものとかで今の時代に漆の美しさを表現していく、というアウトプットをやっているわけです。

それが伝統を続ける継承していくことになりますよね。
新しい部分、革新の部分を積み重ねていくことが伝統になるのかなって思うんです。
同じことをやり続けてる伝統は無くなってしまいますよね。
その時代に時代で求められるものを伝統的なものでも時代のニーズにうまくはめていってあげると、いつの間にか新しい伝統になってると思いました。

僕もそう思っています。
僕は伝統を維持しようとかあんまりそういう感覚はないんです。
むしろ漆器が過小評価されてると、もっと正しく評価してほしいなと。
そうすれば結果として伝統が守られるのかもしれない。

-6. 過小評価されているものに光を当てる

その過小評価されている歯がゆさはよくわかります!
R18もそうなんです(笑)
いいものなんだけど、発信が足りてないんだなって
R18っていうバイクってBMWぽくないって言われていて…

僕も初めて見て、けっこうアメリカンだなって思いました。

ヨーロッパのドイツの会社がなんでアメリカンなもの作るの?って、すごく叩かれたりしていて…
でも実際はアメリカンなものがコンセプトではなくてハーレーのマネ?みたいに言われるのがもうほんとに歯がゆいんです。
正しい発信ができてない。正しくてちゃんと伝わるように発信しないといけないなと。わかりやすく伝えないといけないなと。
でも、さっき、代官山のお店の前にR18を置いて写真撮ったじゃないですか。あれ、ハーレーだったらもっと浮いてるだろうなって思ったんですよね。
代官山のやさしくておしゃれな街並みとマッチして、すごくおさまりが良くて素適だなあって。

やっぱり洗練されてるなって思いましたよ。
ドイツ車もエレガントな方向に向かってますよね。
1920年のオリジナルのバイクをオマージュして作られてるんですよね?

そうなんです。
昔のバイクを今の時代によみがえらせたよっていうバイクなんですけど、むしろBMWのオートバイって別のバイクが日本では有名になってしまって…。
乗った感じどうでした?

めちゃめちゃテンション上がりますよね!
免許を持ってないことを後悔しました(笑)
高速道路とか走りたいな。街中なんて走りたくないですね。
何も考えずにかっすぐダーッて走りたいです。

でも、意外に街乗りもできちゃうんですよ。
クルマの場合って目的があって移動する手段として使われることが多いじゃないですか。でもR18は目的がなくても走れる。
自分と向き合うというか、今の自分ってどうなんだろうなって、無になるというか、そういうちょっと不思議な感覚なんですよ。
見た目もかっこいいですけど、乗るともっとおもしろいですよ。
機械なんですけど、なんとなく生き物というか。

対話ができる感じはしますね。

そうですそうです。
いつもクルマで通る道もバイクで走るとぜんぜん違う感覚で走ってます。

操る感じ?ですかね?
僕もそれは好きで、クルマの免許取ってからずっとマニュアルのクルマに乗ってたんですよ。

感覚は近いと思います。操る感覚が楽しいなと。
ぜひぜひ免許取っちゃってください(笑)
でも大人になってからバイクの免許を取るってなかなかハードルが高いんですけど、最近は、大人の方で免許を取る方は増えていて、若い頃に大きいバイクに憧れてた方がけっこう教習所に来られてるみたいなんです。

そういう意味ではまだまだマーケットありそうですね。
僕の周りにバイクに乗ってる友達っていないですもん。
だから逆に言えば潜在マーケットってすごく大きいんじゃないですかね。

なかなか大型のバイクの免許を取るって大変なんですよね。
だってあぶないじゃない、とか周りに反対されたりもするし…

でもあのR18からリスクはあまり感じませんでしたね。
すごく安定感があって。
でかい昆虫に乗ってるみたいな感じというか…

昆虫ですか(笑)

そしてあのエンジンの出っ張り方はすごいですね。
サメみたい(笑)

BMWは、バイクのエンジンの究極の形だと言ってるんですね。
バイクって2輪で不安定なものなのでバランスがとても大事になってくるんですけど、エンジンを下に置くことですごく重心が安定するんですよね。
スピードに乗って走っている時はもちろんなんですけど、低速の時、渋滞とか、そんな時でも安定してていいんですよ。
出っ張ってるから、傾けて曲がる時にこするんじゃないの?とか縁石とかにぶつかんないの?とか言われるんですけど、ぜんぜんそんなことはないですよ。

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