さまざまな領域において独自のスタイルで活躍する18人とのコラボレーション。
第3回は、いろんな革で様々なものを仕立て上げていく革職人、鮎藤革包堂の鮎澤剛氏とBMW R18公式アンバサダー・佐藤陽子による対談です。
東京神楽坂の鮎藤革包堂さんにお伺いして、革や革製品を見せていただきながら、ほのかに甘い革の香りに包まれて、楽しくお話がはずみました。
牛革から爬虫類まであらゆる天然革を加工して、鞄や革小物に限らず、さまざまなものを生み出している。その自由な製作スタイルは、顧客と対話を重ねながら、互いに納得のいくものを作るために、注文から納品まで、場合によっては数年かけて丁寧に仕上げていくという独特のもので、でき上った製品のクオリティは他に類を見ない。基本的に予約不可。取材不可。
R18アンバサダーを努めるなど、より多くの人にブランドを体感して頂けるよう、日々活動中。
- -1. 鮎藤革包堂 そこは革の小宇宙だった
- -2. 鮎藤革包堂の製作スタイル
- -3. 革で包むと書いて鞄 ~鮎藤革包堂までの道のり~
- -4. やりたいことが増えるから、やれることが増えていった
- -5. 革新は革でできている ~技術の先にあるもの~
- -6. R18は人が身につけるいちばん大きなアクセサリー
- -7. ただそこにある「もやっ」としたもの
~自分が欲しいものってなんだろう~
こんにちは…あれ?ここって床も革?ですか?
革ってお財布とか鞄(かばん)とかを思い浮かべますけど他にもいろんなことができると思うんですよね。
どの革がどんな変化を起こすのか知りたくて、わざといろんな革を混ぜて敷いて、17年メンテナンスもせずにほったらかしてるんです。
革っておもしろくて、人間が織物を作る前から使ってたんですよね。
革を濡らして変形して乾燥させるとその形を保つ特性があるんです。
なので、いろんな形に加工できるんです。
うわーすごい!革でできてるとは思えないですね。
動物の皮膚が「皮」、その皮を使用するために鞣(なめ)したものが「革」なんですよね?
革の歴史は、当たり前ですが布より古くて、原始時代に狩りをして動物を採りますよね。
肉を食べた後、皮をはいで、それを人が噛んで唾液で柔らかく鞣した後、煙で燻して衣類などに使ったと言われています。
その後、日光に当てても色が変わらない耐光性とか熱に強い耐熱性とか、用途に合わせていろんな加工がなされてきたんですよ。
ちょっと作業してるところを拝見していいですか?
たくさん道具がありますね?
年に1度しか使わないものもあるんですが、僕はオーダーメイドでやってるので、何か作るたびに必要なものが増えていくんですね(笑)
気に入ったものは長く使いたいじゃないですか。
革を縫い合わせるための糸も丈夫じゃないといけないし、その塗った穴から水が入ったりしないようにこうして蜜蝋で防水加工をしたりするんです。
革って水に濡れても大丈夫なんですか?
実は、雨のシミとか傷とかそのまま残るものなんですが、それはそれとしてそんなに気にしないで使えばいいんじゃないかと思うんです。
人間だって生きていれば傷の1つや2つあるじゃないですか(笑)
100や200はありますもんね(笑)
できれば大切に扱ってほしいですけどね。
このトランクとか80年前のものなんですけど、今でも十分使えたりするんです。
ちゃんと作ってあれば、普通に使っても、それくらい長く使えるんですね。
どんなものが欲しいかによって、それに合わせて、何の革がいいか、どんな加工をしたらいいか。
もちろん手縫いがいいけど、ぜんぶ手縫いだと高価なものになってしまうので、じゃあ取っ手のところだけ手縫いにしましょうか?とか。
そういうのを一つひとつお客さんとお話ししながら決めるんですか?
最初は住所と名前を書いていただいて、文通をするんです(笑)
で、制作に入れるようになったら、来ていただいて、いろいろ話をしていくんですけど、話していくうちにどんどん変わっていくんです。
オーダーメイドでやってるところだと、よくあるのが、革のカット見本だけ見せて選んでもらって進めたりするんですが、僕はそういうのはやりたくなくて。
どんな素材がいいか、使う革をちゃんと触ってもらいたい。
なるほど。先ほどからいろんな革を見せていただいて触らせていただいてますけど、本当にいろんな種類があって、触ってみると部位によっても厚みや柔らかさやテクスチャーも違ってて、楽しいですね。
せっかく生きていた動物の皮を使うので無駄がないようにしたいんです。
たとえば、オーストリッチ(駝鳥)にしたいとおっしゃったときに、強度的には牛革より落ちるんだけど、そこをちゃんと長く使えるように丈夫に作る。
そこがまあ、職人の腕の見せ所なんですね。
素敵な鞄とか見て、ああかわいいと思ってもそこで終わりだけど、オーダーメイドって聞くと、なんでそうしたの?何を考えてそうしたの?とか、いろいろ聞きたくなっちゃいますよね。
その人の人柄が垣間見えるというか。
作る過程ではいろんなムダ話をしたい(笑)
なぜ何度も足を運んでもらってちまちま進めてるかっていうと、世間話や雑談することで、その人の後ろにあるものが見えてくるんですね。休日の過ごし方だとか、ものの扱い方だとか。
そういうのが見えてこないと、いいものができないというか、お客さんと自分でイメージの共有ができた時に初めていいものができると思うんです。
余計な話をすることで、ああ、この人はこうした方がいいんだなとか掴めてくるので、作る技術と同じくらい、聞く技術とそこからイメージする想像力が重要なんじゃないかと思います。